女は酔っていた。(酒に、マイケルに。)
男は溺れていた。(酒に、マイケルに、自分に。)
“酒色”に耽溺する二人に降りそそぐ視線は真冬の雨のように冷たく、
のしかかる空気は肺を圧しつぶすほどに暗く低く垂れ込めている。
そして男は言った。「俺はぁ、マイケルとならさぁ、ヤレるよ!」
そして女は唸った。「けだし名言!」
数秒後、しかし女は空気を読んだ。
Sよ。
それもひとつの愛のかたち、
マイケルを愛するいち同士として、
もし君が世間の目という豪雨に押し流されそうな時には、
藁の一本も差し伸べたい気持ちをぐっと飲み込み
鬼の心をもって
頑健な石橋の上から君の頭を踏みつけにしてくれようぞ。
桃色の大海へと続く激流に蹴落としてくれようぞ。
その役目、つらくはあるがこの私が責任を持ってお引き受けいたそう。
這い上がってこい、Sよ!
たどり着け岸まで!(ひとりで!)
ていうかむしろ流れていけ!
飲まれろ欲望のうず潮に!
白眼という名の雨に濡れそぼちながら
テーブルに突っ伏し眠る男は、
心なしか微笑んでいるように見えた。
(夢を邪魔してはアレなので放置して帰る)
彼の行く末をこれからも生暖かく見守っていきたい。
そう、心に誓う女であった。