車通りの多い道を歩いていると、エンジン音に紛れかすかに歌声が聴こえる。カー・ステレオかと見渡すが、歩いても歩いても歌の遠ざかる様子はない。まさか幻聴?とも思うけど、昼日中から酔ってもなければ、精神を病んでいるということもないしな。
なんだろうなと考えながら歩いていたらふいに車が途切れた。なんの気なしに通りの向こうに目をやると、傘をふりふり歩く男がいる。
こいつだった。
真っ昼間の大通りで、傍らに人無きがごとく大音声にて歌う男。外なのに。昼間なのに。一人なのに。時々、興が乗っちゃうんだろうな、空を仰ぐ。テンション上がっちゃったかー。なら仕方ないな。
歌えよ男。ゴキゲンな一日を。
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「何かいいことないかなと歩き回る 俺様はご機嫌な男」・・・誰の詩だったか。